自営業・個人事業主の生命保険を考える
自営業者や個人事業主は、会社員・公務員と比較すると、年金や健康保険などの社会保障が不足しがちです。
その背景には、自営業者が、ビジネスの成功によって会社員以上の収入を得るチャンスに恵まれていること、青色申告や損失の繰り越しといった事業主向けの優遇制度が用意されていることなどが理由としてあげられます。
しかし、生きていくうえで起こりうる病気や事故、死亡などのリスクは(仕事上の危険度等に差がなければ)自営業者と会社員とで大きく異なるわけではありません。
自営業や個人事業を営んでいる方で、社会保障の内容が「不足している」と感じる場合は、民間の保険や様々な公的制度を活用して、ご自身の不安やリスクに備えることを考えてみましょう。
そこで今回は、「自営業者と個人事業主の生命保険」をテーマに、自営業の方々が受けられる社会保障の内容と、保障が不足する場合の補い方について解説します。
自営業・個人事業主がもらえる社会保障は?
まずは自営業者・個人事業主の社会保障について見てみましょう。下表の通り、自営業者・個人事業主の社会保障には「国民年金」と「国民健康保険」という2つの大きな柱があります。
≪ 自営業者・個人事業主が受けられる社会保障 ≫
死亡・後遺障害 | |||||
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公的保障 | 対象者 | 支給内容&支給額 | 会社員との比較 | ||
国民年金 | 子のある配偶者、もしくは子 ※子とは…18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子、20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子 |
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国民健康保険 | 葬祭執行者 |
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労災保険
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病気・ケガ | |||||
公的保障 | 対象者 | 支給内容&支給額 | 会社員との比較 | ||
国民健康保険 | 加入者本人 |
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― | ― | ― |
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出産・子育て | |||||
公的保障 | 対象者 | 支給内容&支給額 | 会社員との比較 | ||
国民健康保険 | 加入者本人 |
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休業・休暇 | |||||
公的保障 | 対象者 | 支給内容&支給額 | 会社員との比較 | ||
― | ― | ― |
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失業・倒産 | |||||
公的保障 | 対象者 | 支給内容&支給額 | 会社員との比較 | ||
― | ― | ― |
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年金 | |||||
公的保障 | 対象者 | 支給内容&支給額 | 会社員との比較 | ||
国民年金 | 加入者本人 |
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「国民年金」は、老後の生活費(老齢年金)や、万一の死亡・高度障害時の保障。
「国民健康保険」は、医療費の窓口負担を軽減する医療費補助や高額療養費制度・出産時の一時金などが主な保障内容です。いずれも、万一の際の最低限の保障はカバーしていると言えるでしょう。
しかし、会社員の社会保障と比較すると、自営業者や個人事業主のセーフティネットが弱いことは明らかです。特に注意したいのが、18歳未満の子供がいない場合の死亡保障の少なさや、病気・ケガ・出産などで仕事を休む場合の休業保障の薄さです。
自営業者・個人事業主の社会保障の要注意ポイント
死亡・高度障害時の保障
- 18歳未満の子供がいない場合の死亡保障は、ほぼない(遺族厚生年金)
- 高度障害保障は障害等級1級・2級のみが対象(障害厚生年金)
病気・ケガ・出産と、それに伴う休業時の保障
- 業務中に負ったケガや高度障害に関する保障がない(労災保険)
- 休業時の収入保障がない(有給休暇、傷病手当金)
- 出産でもらえるのは一時金のみ。産後の生活費保障や休業保障はない(出産手当金、育児休業給付金)
失業時の保障
- 失業手当や再就職手当等はない(雇用保険)
- 教育訓練などの費用保障がない(雇用保険)
老後の保障
- 老齢基礎年金のみ(老齢厚生年金、企業年金)
手薄な部分を見極めて、民間保険や公的制度でカバーしよう
上記のように、自営業者や個人事業主の社会保障には手薄な部分が多くあります。これらの保障の「穴」に対しては、どのような対策が考えられるのでしょうか?
死亡・高度障害のリスクに備える
死亡・高度障害のリスクをカバーするための、もっとも一般的な方法は生命保険への加入です。夫婦の片方に万一のことがあった場合にも、公的年金の受給条件に関わらず、遺された家族の生活費をカバーすることができます。
生命保険のうち人気が高いのは、保障が一生涯続く「終身保険」ですが、保障が掛け捨てでないぶん、月々の保険料は大きくなりがち。また、終身タイプの死亡保険の多くは、一度加入すると、解約時の返戻金が支払保険料を上回るまでに一定の時間がかかるため、見直しをしにくいというデメリットもあります。
そのため、毎月の保険料負担を抑えたい場合や、終身保障にこだわらない(将来的に保険を見直す可能性が高い)場合は、あらかじめ決められた期間のみ、死亡と高度障害を保障する「定期保険」を選ぶと良いでしょう。定期保険の保険料は原則的に掛け捨てとなりますが、その分、同じ保障内容(死亡保障額)の終身保険と比較すると、月々の保険料は大幅に低くなります。 貯蓄と併用するなどして、一定の資産ができたときに生命保険を見直すつもりでいれば、保険料負担を抑えながら手厚い死亡保障を準備することができるでしょう。
≪ おすすめの生命保険 ≫
インターネットを主な販売経路とするアクサダイレクト生命の定期型生命保険。保険期間は10年間(もしくは満期年齢を55歳から70歳まで5歳刻みで設定可能)。保険料は、35歳男性が月額1,640円(死亡保障額:1,000万円、保険期間10年間の場合)と手頃。余命半年と診断された場合に保険金額の一部または全額を受け取れる「リビング・ニーズ特約」を追加保険料なしで付帯できる。
疾病・ケガ・休業のリスクに備える
日本の国民健康保険は、世界的に見ても手厚い水準となっています。医療費の7割(条件によっては9割)をカバーするほか、窓口での自己負担額が一定以上になると「高額療養費制度」の対象となり、超過した医療費分がキャッシュバックされます。そのため、通常の病気や1週間程度の入院を想定するのであれば、追加の医療保障を検討する必要性は薄いでしょう。
ただし、大きな病気やケガなどで長めの休業を余儀なくされた場合、それに備える保障はほとんどありません。このようなケースへの備えとして有効なものの1つが、長期療養をカバーするために開発された就業不能保険です。
就業不能保険とは、病気やケガなどが原因で働けない状態(就業不能状態)となった場合に、毎月給付金が支払われるタイプの保険です。保険料は原則的に掛け捨てとなりますが、生命保険よりもトータルの支払保険料を抑えられるケースが多く、追加の保障として検討しても良いでしょう。
≪ おすすめの就業不能保険 ≫
業界初の就業不能保険として知られる。2010年2月に発売され、2016年6月に「働く人への保険2」としてリニューアル。加入者の年収別に月額10万円から50万円までの就業不能給付金を設定できる。保険期間は年齢別に55歳から70歳まで5歳刻みで設定可能。保険料は、35歳男性が月額2,309円(就業不能給付金月額10万円・保険期間60歳までの場合)と、同社の定期生命保険と比較しても割安。
老後の年金を増やす
自営業者や個人事業主の大きな不安の1つが老後の生活費です。65歳以降に支給される老齢基礎年金は、満額でも77万9,300円(平成29年度)であり、年金のみで生活を維持していくことは、ほぼ不可能でしょう。
ただし、国民年金には前述の通り、老齢基礎年金だけではなく、万一の死亡や高度障害をカバーする機能もあります。老後資金作りの基盤となる制度でもあるため、まずは未納期間のないよう保険料を確実に納め、満額給付を目指しましょう。
自営業者や個人事業主には、国民年金以外にも様々な年金制度が用意されています。掛金が全額所得控除になる等、税制面でも優遇されるため、国民年金にプラスして、これらの公的制度で資産形成を考えてみてはいかがでしょうか。
≪ おすすめの年金対策 ≫
保険料に月額400円を上乗せして支払うことで、200円×付加保険料納付月数の付加年金が支払われる。たとえば、20歳から60歳までの40年間、付加保険料を納めた場合、通常の年金額に200円×40年間(480月)=96,000円が上乗せして支払われるため、2年間の年金受給で付加保険料分のもとが取れる計算となる。申込みは市区役所及び町村役場の窓口で受付。
中小企業経営者や個人事業主の退職金づくりを目的とした共済金制度。毎月の掛金を1,000円から7万円までの範囲内(500円単位)で設定し積み立てる。掛金は全額が所得控除の対象(経費算入は不可)。共済金を受け取る場合も退職所得控除(もしくは公的年金等控除)の対象となる。掛金範囲内での貸し付けも可能。ただし、納付が20年未満の場合は元本割れとなるため注意したい。
老後資金の形成を目的とした資産運用制度。毎月の掛金を5,000円以上1,000円単位で決め(自営業者は最大6万8,000円まで)、証券会社と購入する金融商品を選んで積立運用を行う。掛金は全額所得控除の対象となるほか、金融商品の運用益も非課税。受け取る場合も退職所得控除(もしくは公的年金等控除)になる。途中解約は原則不可。
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まとめ
自営業者や個人事業主は、社会保障が不足しがちな分、様々なリスクへの対策を自分自身で行っていく必要があります。
今回ご紹介した方法以外にも、貯蓄を充実させたり、投資で資産や不労収入を拡大し、有事の際の出費に備えることも選択肢となるでしょう。
社会保障の面では会社員と比較して手薄になる自営業者や個人事業主ですが、税制面では多くの優遇を受けられます。まずは、ご自身が受けられる社会保障をしっかりと把握したうえで、民間保険や公的な優遇制度を活用し、生活を取り巻く様々なリスクに備えましょう。
Writer:長尾尚子