第6回 収入と保険
1.収入と保険
病気やけがで退職や長期の休業を余儀なくされた場合、減った収入をどのようにカバーしていくかは、多くの方が気になるポイントではないでしょうか。
数日~1年前後の比較的短期の入院・休業であれば、健康保険や貯金、または民間の医療保険で、ある程度のサポートが可能ですが、病気やけがの度合いが大きく、身体に障害が残った場合や、長期の治療あるいは退職を余儀なくされた場合は、大幅な収入減に加えて治療のための費用が発生するため、家計の負担は非常に大きなものとなります。
このような事態に備えるために知っておきたいのが、公的な保険の収入保障と、それをカバーする民間の保険の収入保障です。大きな病気やけがで、一命は取り留めることができたものの長期の治療が必要になったなど、多額の費用が必要になる場面で役に立つ保険を解説します。
2.公的な保険の収入保障
重度の身体障害や長期休業時に備えて国が用意している保障には、国民年金・厚生年金から支給される「障害基礎年金・障害厚生年金」、健康保険から支給される「傷病手当金」があります。
前者は、国の定める障害等級に基づいた1級・2級(傷害厚生年金は3級も含む)の障害者に対して所定の年金額(障害厚生年金は報酬に比例した年金額)が支払われ、後者は、病気やけがのために会社を休んだ日が4日以上あった場合の4日目から1年6ヶ月まで、標準報酬日額の3分の2が支給されます。
≪ 公的な保険の収入保障 ≫
身体傷害 | |
---|---|
相当する保険 | 国民年金・厚生年金 |
支払われるお金の種類 | 傷害基礎年金・傷害厚生年金 |
条件 |
初めて医師の診療を受けたときから 1年6ヵ月経過したときに障害の状態にあるか、または65歳に達するまでの間に障害の状態となったとき 傷害基礎年金 ・保険料納付済期間(保険料免除期間を含む。) が加入期間の3分の2以上ある者の障害 ・20歳未満のときに初めて医師の診療を受けた者が、障害の状態にあって20歳に達したとき、または20歳に達した後に障害の状態となったとき 傷害厚生年金 ・加入期間中に初めて医師の診療を受けた傷病による障害。ただし、障害基礎年金の支給要件を満たしている者であること |
支払われる額 |
障害基礎年金 ・1級 792,100円×1.25+子の加算 ・2級 792,100円+子の加算 障害厚生年金 ・1級 (報酬比例の年金額) × 1.25 + 〔配偶者の加給年金額(227,900円)〕 ・2級 (報酬比例の年金額) + 〔配偶者の加給年金額(227,900円)〕※対象者のみ ・3級 (報酬比例の年金額) ※最低保障額 594,200円 |
支払われる人 | 被保険者 |
病気・ケガによる長期療養・退職など | |
---|---|
相当する保険 | 健康保険 |
支払われるお金の種類 | 傷病手当金 |
条件 | 病気やけがで休んだ期間のうち、最初の3日を除き4日目から支給。支給期間は支給を開始した日から数えて1年6か月 |
支払われる額 | 標準報酬日額の3分の2 |
支払われる人 | 被保険者 |
POINT! 障害によって支給対象となる保険
障害の種類によっては、「障害基礎年金・障害厚生年金」「傷病手当金」のどちらも支給対象となる場合があります。その際は、「傷病手当金」から「障害基礎年金・障害厚生年金」への切り替えとなるケースが多く、「傷病手当金」の支給期限である1年6カ月がすぎた後も、「障害基礎年金・障害厚生年金」を受給することができます。
なお、「傷病手当金」よりも「障害基礎年金・障害厚生年金」の支給額が下回る場合は、1年6カ月までのあいだ「傷病手当金」の差額分が支払われます。
このように、傷害や長期休業による治療費用や減少する収入への備えは、公的な保険である程度カバーすることができます。
特に、「厚生年金」と「健康保険」に加入しているサラリーマンの保障は手厚く、障害等級1級・2級であれば国民年金からの「障害基礎年金」と厚生年金からの「障害厚生年金」という二段階の給付を受けることができるうえ、障害等級3級の場合も、「障障害厚生年金」の受給対象となります。また、休業4日目~1年6ヶ月のあいだは、健康保険の「傷病手当金」も支給されます。
ところが、国民年金や国民健康保険加入者の場合は、「障害厚生年金」や「傷病手当金」が対象外となるため、万一の場合の保障が十分に受けられない場合があります。
また、サラリーマン世帯であっても、現在の貯蓄額や家族構成(小さな子がいる家庭など)によっては、これらの資金ですべての必要出費をまかないきれないケースもあるでしょう。
3.民間の保険が提供する収入保障とは?
公的な保険の収入保障だけでは、万一の収入減をカバーしきれない場合に役立てたいのが、民間の保険会社が販売している生命保険や損害保険です。
有名なものは、生命保険の「高度障害」や傷害保険の「後遺障害」。また、医療保険のうち180日や240日など比較的長期で給付金を支払うタイプのものも、保険が適用された場合は、収入の減少を一部カバーすることができます。
ただし、生命保険の「高度障害」が適用される身体障害とは、両目の永久失明や言語・そしゃく機能の完全喪失、終身常に介護を要する状態など、国の障害等級の1級に匹敵するものが多く、かなり重度の障害でなければ保険金が降りません。
また、傷害保険の「後遺障害」も不慮の事故によるけがのみを対象としており、病気は対象外のものがほとんどです。
医療保険は病気・けがとも対象になりますが、入院・手術を条件に支給される「入院給付金」や「手術給付金」が多く、在宅療養は対象外となるのが一般的。また、支払限度日数を超える入院に対しても保障がききません。
≪ 民間の保険の収入保障 ≫
就業不能給付金・長期所得補償保険 |
|
||
---|---|---|---|
生命保険・収入保障保険 |
|
||
傷害保険 |
|
||
医療保険 |
|
長期療養・休業時の所得保障にターゲットをしぼった就業不能保険
このような長期間の療養・休業で発生する収入の減少をカバーするために近年販売されたのが、「就業不能保険」「長期所得補償保険」と呼ばれる保険です。医師から働ける状態ではないと診断され、「入院」もしくは「在宅療養」の指示が一定にわたって継続している場合に給付金(または保険金)が支払われます。
代表的な就業不能保険の一つであるライフネット生命の「働く人への保険」を見ると、契約者が所定の就業不能状態となってから180日以上が経過すると、加入時に定めた所定の「就業不能給付金」を、最長65歳まで毎月、受け取ることができるようになっています。
給付金の月額は、契約者の加入時の年収によって一定範囲が決められており、月額10~50万円を5万円単位で設定可能。ただし、加入者は会社員などの安定した勤労所得がある人のみに限られ、パートやアルバイト、主婦、学生などは加入することができません。
このように、加入時のハードルはやや高めとなる就業不能保険ですが、公的な保険の「障害年金」や、生命保険の「高度障害保険金」よりも支払い条件がゆるやかなうえ、傷害保険や医療保険がカバーしきれない「病気」「在宅療養」をサポートしていることもあって、働き世代を中心に人気が高まっています。
特に、住宅ローン返済中の世帯では、ローン契約者が加入する「団体信用生命保険」によって、契約者の死亡時は住宅ローン支払いが免除になりますが、契約者が就業不能状態となった場合の保障まではないのが一般的。 そのため、ローンの残債がかなりある場合や、「子供が小さい」「貯金が少ない」「妻が専業主婦」などで家計に不安要素がある場合は、通常の生命保険に就業不能保険を加えるなどして、さまざまなリスクに備えた保障設計を行うと良いでしょう。
≪ 長期の収入減少をカバーする民間の保険 ≫
インターネットを主な販売経路とする生命保険会社・ライフネッ生命トの就業不能保険。 ネット保険ならではの手頃な保険料が特徴
保障内容 | 就業不能給付金 |
---|---|
保障額 | 月額10万円~50万円まで(5万円単位) ※被保険者の加入時の年収によって上限あり ※支払限度:1億円 |
対象者 | 18歳以上、60歳以下 ※安定した勤労所得のある人(年収150万円以上) |
保険期間(保険料払込期間) | 65歳まで ※月払いのみ ※就業不能給付金受給中も保険料の支払いは必要 ※保険料は一定 |
就業不能状態の定義 | 病気やケガにより、日本国内の病院もしくは診療所への治療を目的とした入院または日本の医師の資格を持つ者の指示により在宅療養をしており、「少なくとも6ヶ月以上、いかなる職業においても全く就業ができない」と医学的見地から判断される状態 ※うつ病などの精神障害や、むちうちなど医学的他覚所見がみられない場合は保障対象外 |
給付金支払い開始日 | 就業不能状態になってから180日間の経過後 |
保険料 | 30歳男性:1,946円/月 40歳男性:2,518円/月 ※月額10万円 60歳満期、特約なしの場合 |
このサイトに行く |
日立キャピタル損害保険の長期就業不能所得保障保険。うつ病などの精神疾患も対象となる
保障内容 | 保険金 |
---|---|
保障額 | 月額10万円~30万円まで(5万円単位) ※税込年収の1/12×60%が上限 |
対象者 | 3年または5年 ※月払いのほか年払いもあり ※60歳まで自動更新 ※保険料は更新時の満年齢で再計算される |
保険期間(保険料払込期間) | 3年または5年 ※月払いのほか年払いもあり ※60歳まで自動更新 ※保険料は更新時の満年齢で再計算される |
就業不能状態の定義 | 被保険者が身体障害を被り、①その身体障害の治療のために入院していること、または、②入院しないで医師の治療を受けていること、または、③所定の後遺障害があること、のいずれかの事由により、いかなる業務にも全く従事できない状態 ※むちうち・腰痛その他の症状で医学的他覚所見がみられない場合は保障対象外 |
給付金支払い開始日 | 就業不能が開始した日から起算して、継続して就業不能である保険証券記載の日数(60日) |
保険料 | 30歳男性:2,110円/月 23,020円/年 40歳男性:3,400円/月 37,080円/年 ※月額10万円 対象期間60歳まで、保険期間5年の場合 |
このサイトに行く |
ライフネット生命の保険料試算および掲載データについて
※いずれの商品も、満期保険金や配当、また、解約返戻金はありません。なお、保険料は、2014年5月2日時点の保険料率で計算したものです。
※本データは、2014年5月2日時点の情報を元に作成しております。
≪ 必要保障額シミュレーション≫
アクサダイレクト生命の必要保障額シミュレーション。生年月日や性別、家族情報を入力して必要保障額を割り出せる。算出結果は、生活パターン(配偶者の働き方・子供がいるかなど)によって自由にカスタマイズ可能